なんとなく観たくなる コーヒー&シガレッツ
なんとなくテレビをつけておきたいがちゃんと観る時間もないし、選ぶ元気もないし、もはやなんとなく流れていればなんでもいいしなんならもうかかってなくていいという程追い詰められて指一本動かすことさえも敵わないほど疲れ切っている皆様方に圧倒的な力をもってしてオススメしたい映画といえばこれです。
「コーヒー&シガレッツ」
これだけかけておけばもう問題ありません、あなたのなんとなくテレビをつけておきたい欲求は100%満たされることになるでしょう。
この映画を真面目に90分間、ひたすらにスクリーンを眺める必要はおそらく『中年男性のちょっと出ている鼻毛』程度しかなく、従って私たち鑑賞者は中年の上司に怒られている時になんとなく鼻毛を眺めている程度の力をもってして観賞するだけでいいのです。
「鼻毛を抜いてくれないと話に集中できない」と思っている時、もはや怒られているのか鼻毛を見せびらかされているのかもわからないと困惑してしまう事はおそらく全人類の意見に相違ないと思われますが、それくらいこの映画は話を聞く必要がないと言ってもいいほどです。もちろん話は聞いた方がいいので、そういう点でも鼻毛を気にするより、怒られている内容を聞いた方がいいことも言うまでもありません。名残おしいですが、そろそろ非常にどうでもいい鼻毛の話は終わりにして本題の映画に移りたいと思います。
「コーヒー&シガレッツ」とは
映画が好きな人であれば、できる限り映画に近い日常や体験をしたいものでしょう。それをすごく近しい形で叶えてくれる映画がこれです。
主に喫茶店を舞台に二人ないしは三人の登場人物が会話をしている映画です。
舞台は喫茶店の枠を超えませんが、著名なミュージシャンや(イギーポップやトム・ウェイツ、the white stripes)著名な俳優(ロベルト・ベニーニ、スティーヴ・ブシェミ、ケイトブランシェット)が多数出演しています。
11のシーンに区切られていて、1つおよそ5〜10分ほどです。よく、「白黒の映像の中で、洒落た雰囲気を纏いながらコーヒーとタバコを嗜みながら登場人物がとりとめもない話を延々としている映画」と言われがちですが、それだけではない隠された魅力が詰め込まれています。
この映画について監督のジム・ジャームッシュは「気楽に撮ったし、気楽に観てほしい」とコメントしています。
そのコメント通り、この映画は随分肩の力の抜けた映画となっています。映画というと素晴らしい筋書き、大掛かりなアクションや不気味に流れる不穏な空気、お洒落で魅力的なシーンや感動的なストーリーなど、エンターテイメント性が高いものが多く、それというのも映画を娯楽とするには日常を離れた、もしくは日常の中の隠れたロマンを描き出す必要がある為でありますが、この映画はその隙間を縫うようにして限りなく日常を描いて、それがむしろ新鮮かつ、面白いと感じられる仕掛けになっています。
(上からの図、ジム・ジャームッシュさんはこのチェック柄のテーブルを上から撮るのが気に入っていたそうです)
この映画に絶対に欠かせない要素が二つあります。
一つ目は「豪華な俳優陣」です。この点こそがこの映画を魅力たっぷりに描き出す要素となっています。もしこれが名の知れていない俳優、ミュージシャンが演じていたらこれほどの魅力は出せなかったでしょう。そもそも監督の意図の1つに「キャスティング」があります。この映画は彼が「面白い」と思うキャスティングを実現しているんです。例えば「イギーポップとトムウェイツ」これだけですごく個人的には興味が出ます。(ちなみにこの回、トムウェイツがなんだかイライラしているのは撮影の前に脚本が面白くない、どこが面白いのか言ってみろと言うほど怒り狂っていた為。そしてその雰囲気をわざと残したそうです)
二つ目は「日常的なシーンを撮っている事」です。「違和感なく日常から離れている」と先述しましたがこの言葉の真意は「豪華な俳優陣」が「日常的なシーンを撮られている」という点です。これが「一般人の日常を映した映画」であれば誰の興味も惹かないでしょうし、「豪華な俳優陣」が「ドラマチックに撮られている」のであれば他の映画と遜色ありません。「著名人の日常的なシーン」を描いているからこそのシュールさが魅力なのです。全員が全員著名人ではないという点も更にリアリティを増す要因になっています。
演者の名がそのまま使われていることも彼らの等身大を描いているように感じられます。もちろん脚本はあるそうですが、監督は演者のアドリブやアイデアを歓迎していますし、そういう点もより彼を等身大に感じられる要因になっているのでしょう。さらに舞台は喫茶店であるということ、そのことからも親しみやすさを感じられ、私たち「鑑賞者」と「画面の中の彼ら」の境界は限りなく少なく、コーヒーとタバコを用意すればより彼らに近づくことができます。このシュールな映像の中に自らを投影できる魅力こそがこの映画最大の持ち味です。簡単に言うと「ムービースター、ミュージシャンが近くでお話ししてるみたいで素敵!」ってなります。
ということで演者のことを何一つ知らないと、白黒でシンプルな感じがむしろお洒落でいい感じだよね〜⭐︎なんて感じで終わってしまいます。まぁでも監督自身が気楽に観てくれよって言ってますからその見方で全く差し支えないわけですが、より楽しむためにも一応何人か演者さんを紹介して終わりにしましょう。
以下話順です(載せてない話あり)
「変な出会い」(STRANGE TO MEET YOU)
ロベルト・ベニーニ(右)(俳優)
「ライフ・イズ・ビューティフル」にてアカデミー主演男優賞受賞
「双子」(TWINS)
スティーヴ・ブシェミ(中央)(俳優)
「レザボアドッグス」「パルプフィクション」 「90年代に最も仕事をした俳優」ランキング4位
「カリフォルニアのどこかで」(SOMEWHERE IN CALIFORNIA)
イギー・ポップ(左)(ミュージシャン)
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第75位
トム・ウェイツ(右)(ミュージシャン)
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第82位
「いとこ同士」(COUSINS)
ケイト・ブランシェット(女優)
「エリザベス」シリーズ、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ 出演
「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」(JACK SHOWS MEG HIS TESLA COIL)
メグ・ホワイト(左)(ミュージシャン)
ジャック・ホワイト(右)(ミュージシャン) 二人で「WHITE STRIPES」というバンドで活動していた。アルバム三枚がグラミー賞受賞(現在は解散している)
「幻覚」(DELIRIUM)
ビル・マーレイ(俳優)
「ゴーストバスターズ」主演
こんな感じで意外と名の知れた人たちが出ています。
ぜひコーヒーとタバコを用意して、何気なく観賞したら喫茶店にでも赴いてくださいまし。
あ、ちなみに映画については二週間に一回、金曜か土曜に更新していく予定ですのでよろしくお願いいたします〜。